「Sustainable Development Report」(持続可能な開発報告書)が国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)より発表されました。
SDGsの目標それぞれに、達成状況が4段階で表され、日本は六つが最低評価でした。2021年と変わらず最低評価だったのは、「ジェンダー平等」(目標5)、「気候変動対策」(同13)、「海の環境保全」(同14)、「陸の環境保全」(同15)、「パートナーシップ推進」(同17)の五つです。
最近の傾向として日本の企業では少なからずSDGsブームがあり、SDGsの研修やジェンダー平等に向けた取り組みが表向きには行われているように見えてきました。しかし、今回のニュースや2021年もジェンダー・ギャップ指数が歴代最低記録を変わらず更新をして変化をしていない点から、ジェンダー平等に向けて取り組んでいる「つもり」でもまだまだジェンダー平等は実現からは遠く、本質的な解決には何も踏み出せていない。深刻な状況であることが露わになってしまいました。
では、これから日本が世界から遅れを取らないよう、真の「ジェンダー平等」(目標5)のためにできることは何でしょうか。今回は企業がジェンダー平等のために取り組むべき10のことをご紹介いたします。
(1)ジェンダーバイアス問題に真剣に取り組む
ジェンダーバイアスとは女性の管理職比率は低くて当たり前だ、男性はエンジニアに向いている、などをはじめとする文化・社会的な性別役割分業の無意識による偏見のことです。
ジェンダーバイアス問題とは放置をすることで不公平な評価を生んだり、性別賃金格差を生みます。海外では積極的にジェンダーバイアスに対する対策を行っております。
(2)ジェンダーハラスメント対策を行う
ジェンダーバイアスを始めとする価値観を他人に押し付けることをジェンダーハラスメントと言います。「女性で起業をするのは珍しい」、「男性で稼いでいないなんて男らしくない」、などが該当をします。ジェンダーハラスメントは現時点では不法行為ではないものの、放置をすることはセクハラが起きやすい職場の温床になりかねないと厚生労働省では注意喚起をしています。
特に、厚生労働省の「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」では、以下のようなことは男女雇用機会均等法違反となるとしています。
・男性には通常業務のみに従事させる
・女性には通常業務に加え会議の庶務・お茶くみ・掃除当番などの雑務を行わせる
男女雇用機会均等法では、労働者が性により差別されることなく充実した職業生活を営むことができることを基本理念としており、性別を理由とする差別の禁止事項を設けています。企業は、セクハラへの注意喚起だけではなく「性差別に該当するような言動は慎むべきもの」として指導が必要です。
※関連 ジェンダー平等研修、ジェンダーハラスメント対策
(3)性別による賃金格差・昇進格差に着目をする
ジェンダーバイアスやジェンダーハラスメントは時に性別による賃金格差や昇進格差に影響を与えます。例えば、ブラインド採用を行うことで、ジェンダーバイアスが採用や評価に影響を与えていた、などの報告がございます。
また、同じ内容を話しても、長く話をすることで男性は高く評価をされ、女性は低く評価をされる傾向が報告されています。また、恋愛感情が湧き、異性をえこひいきして昇格させてしまった、などがないような評価制度が海外では取り組まれています。米国や北欧では、すでに評価制度が大きく変化をしております。私たちは常に様々なバイアスの中で生きているため、すべてのバイアスから解放されることは難しいですが、日本でもジェンダーバイアスを理解した上で、なるべく公平・公正な評価を目指す取り組みが必要なことは間違いないでしょう。
(4)働き方のジェンダー平等を取り入れる
既存の働き方の「基準」はまだまだ男性に偏っていると一部では声が挙がっています。性差とそれぞれ個体差を理解した上で、働き方の基準についても未来に向けてアップデートが必要です。それぞれの働き方を理解し合うことが大切です。
※関連:ジェンダー平等研修 LGBT研修
(5)家庭内のジェンダー平等を支援する
ワークライフバランスを始め、家庭との両立は、ジェンダー平等社会へと近づきます。家庭のジェンダー平等が働き方のジェンダー平等へと繋がっていきます。性によらず、家庭内での支援や理解が、職場でも良いパフォーマンスを発揮するのは言うまでもありません。
(6)広報・マーケティングを変える
最近ではジェンダーレスが広報やマーケティングに活かされ、ヒット商品を生んでいます。ジェンダーの知識はこれからの社会人の常識であり、ビジネスにも有効です。
ジェンダーの炎上などのリスク対策はもちろん、ビジネスを加速させるためにもジェンダー平等の知識は最低限必要と言えるでしょう。
(7)既存の教育を見直す
女性管理職研修とは、女性のみが管理職になるために研修を受けなければならない、女性は管理職になるにあたり自信がないだろう、などといったジェンダーバイアスを助長させるものです。
出世に大切な貴重な時間や労力男性が資格取得や昇進のために使っているとしたら、仕事の評価は資格を取得したり時間や労力を仕事にあてた男性が高くなることでしょう。ジェンダー平等のために行っている施策が実はジェンダー平等を遠ざけていた、ということが海外では指摘をされております。
ジェンダー平等とは、女性の問題ではなく男性が当事者です。男性を含めすべての性の人が受講をするジェンダー平等のための研修が必要です。
※関連記事 ジェンダー平等に向けて_企業研修の選び方
(8)平等と多様性の違いを知る
ジェンダー平等と多様性は同じ「ジェンダー」を扱うものですが、異なるものです。ジェンダー平等を理解すれば、ジェンダーの多様性を必ずしも理解できるのかと言えばそうではなく、ジェンダーの多様性を理解すればジェンダー平等を理解できるものではありません。
これからの未来に向け、ジェンダーの平等もジェンダーの多様性も両方学び理解を進める必要があるでしょう。
(9)バッククラッシュ対策を行う
世の中が動く時、既存社会で地位を得てきた人からは不安や焦り、怒りが湧きます。これはすでにジェンダー平等と言われる北欧でも起き、メンズクライシス(男性の危機)というバッククラッシュ(反対運動)が起きました。そのため、スウェーデンでは国内に30カ所以上の相談窓口を設け、男性の不安や焦りをケアしたのです。
ジェンダー平等は誰もが当事者です。社内でジェンダー平等の取り組みを検討しても、不安や焦りを感じる人が多く、話が前進しないという声も聴きます。
ちなみに反対の声を挙げるのは男性が多いものの、男性に好かれることで出世をしてきた女性など、既存の社会が変わることを嫌がる男性以外の方も当てはまります。
自分の意見ではなく、むしろ男性の意見に賛同をすることを重視するでしょう。
男性社会では男性に好かれることで、出世できた女性もいるのです。それが悪いことではありませんが、ジェンダー平等思想は時にそのような女性から反感を買います。
女性だからジェンダー平等に賛同するだろう、というのも思い込みのひとつです。適切なケアを行い、不安や焦りを感じる人がひとりでも少なくなるよう、企業でも相談窓口を設けるなど、ケアを行いましょう。
(10)ジェンダーバランスの良い組織をつくる
ジェンダー平等とは男性も女性もその他の性の人も誰もが皆当事者です。それぞれバランスの良い組織は、企業を正しい判断へと導き、企業の存続年数が伸びリスクが少ないと言われています。既存の社会で成功をしているように見えても、これから先、不祥事なく企業が存続ができるかどうかはわかりません。
男性がつくったメディアは男性が伝えたい内容を、女性がつくったサービスは女性嗜好になることは当たり前です。ジェンダーバランスの良い組織は誰かを傷つけることなく、誰もに愛されるサービスを創作できる可能性が向上します。
組織はもちろん、小さなミーティングひとつとっても大切です。ミーティングに男性が1人入っていれば、ジェンダー平等な判断ができているか、その人の意見がしっかりと通るかと言えば決してそうとは言えません。『クリティカルマス』というある結果を得るために最低限必要な数を表すマーケティング用語があります。全体の3割にその対象となる人がいなければ、主張が実現されにくいと言われています。
つまり、ジェンダー平等の視点で判断できたかどうか、男性7割、女性3割、男性3割、女性7割が最低限必要な数字です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。SDGsのゴールのひとつであるジェンダー平等に向けて、企業ができることが具体的に見えてきたのではないでしょうか。ご参考にしていただき、ぜひ企業のジェンダー平等への取り組みにお役立ていただけますと幸いです。
(1)ジェンダーバイアス問題に真剣に取り組む
(2)ジェンダーハラスメント対策を行う
(3)性別による賃金格差・昇進格差に着目をする
(4)働き方の男女平等を取り入れる
(5)家庭内のジェンダー平等を支援する
(6)広報・マーケティングを変える
(7)既存の教育を見直す
(8)平等と多様性の違いを知る
(9)バッククラッシュ対策を行う
(10)ジェンダーバランスの良い組織をつくる
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ライター:松阪美歩
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